大槻能楽堂自主公演 平成28年 1月16日(土)「海女」懐中之舞  あらすじ 見どころ        

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平成28年1月16日(土)14時開演 大槻能楽堂自主公演

能の魅力を探るシリーズ「能の描く女たち」  

お話「我が子にささげた命、玉取伝説に秘められた謎」井沢元彦

狂言『鬼継子』シテ 山本則重 アド 山本凛太郎

 

能『海士 懐中之舞』
シテ 海人/龍女 上野雄三
子方 房前大臣 長山芽生
ワキ   従者 福王知登
ワキツレ 従者 喜多雅人
ワキツレ 従者 是川正彦
アイ   浦人 山本泰太郎

笛       赤井啓三
小鼓      吉阪一郎
大鼓      守家由訓
太鼓      前川光長

後見      大槻文藏 上田拓司
地頭      上野朝義 他

前売一般4,300円(+500円で指定席) 当日4,800円 学生前売2,700円 当日3,100円  

 

海士 あらすじ

前場

奈良時代、房前の大臣(子方)は、亡き母が讃岐の志度の浦の海人であると知って、従者(ワキ、ワキツレ)を伴い、追善の為にその 地を訪れます。

そこで、海人(シテ)が鎌と海松藻(みるめ)を持って現れます。

従者は海人に、水底の月を見るために、海松藻を刈るよう命じます。

海人は、「昔も似たことがあった、龍宮に取られた明珠を潜き上げたのもこの浦の海人だった」と昔のことを語り始めました。

従者は海に入ろうとする海人を留め、今の「玉を取り戻した海人」の話を訪ねます。

藤原不比等がこの地に来てある海人と 契りを交わし、宝珠を取り返してくれば生まれた子を後継ぎにすると約束し、海人は命が けで海底に潜り竜宮に飛び入り乳の下を掻き切って宝珠をまもり、龍宮から珠を取り返してきた有様を語ります。

その様子 を一部始終物語り、自分こそが房前の母だと名乗り海中に消え失せます。

 

浦人(アイ)が登場。

唐土から贈られた三つの宝のこと、その一つである面向不背(めんこうふはい)の珠が龍神に奪われたのを海人が取り返したことなどを語り、房前大臣が亡き母の為に法要をおこなう準備を始めることになった旨に触れます。

 

後場

房前大臣は亡き母の残した手紙を読み、回向をして母の菩提を弔うと、

龍女となった母の霊が現れ、法華経の功徳で成仏できたと喜び舞を舞います。

 

懐中之舞(かいちゅうのまい)

後シテは法華経の書かれた巻物を手に持って登場します。

通常の演出であれば、後シテが〔早舞〕を舞い始める時に子方に経巻(きょうかん)を渡すところを、「懐中之舞」では、シテは経巻を有難く押し頂く心持ちで胸に挿し、経巻を懐中したまま舞を舞います。

舞いの留めにその経巻を子方に渡し、子方が経巻を読むという演出になります。

経典の功徳によって海人の霊が救われた、その喜びを強調する演出で、この他にも装束や前場の型などが変わります。

 

みどころ

前場の海人が竜宮から玉を取り戻した様を仕方語りに演じるところは「玉之段(たまのだん)」と呼ばれ、最大の見せ場となっています。

 竜宮に飛び込んで玉を盗み、最後は自分の乳房を搔き切ってそこに玉を押し込むという壮絶な描写はたいへん印象的であります。

小書「懐中之舞」では、「玉の段」も橋掛かり(はしがかり)を使い、より写実的に演出しています。

ただインパクトの強い描写が続くのではなく、深い海の底から遙か彼方にいる夫や我が子を思い出し、今生の別れに涙ぐむなど、しんみりとした情趣ある場面も挟まり、非常に緩急のついた、ドラマチックな場面となっています。

前場とは対照的に、後場は仏法の力によって救われたシテが、澄んだ美しい舞である〔早舞〕を舞う、優美な場面となっています。